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角張渉(カクバリズム) × 増田 "takeyan" 岳哉 (SUMMIT)
INTERVIEW




角張渉(カクバリズム) × 増田 "takeyan" 岳哉 (SUMMIT)

7月8日、Erectionが企画の代官山UNITの10周年スペシャルイベントとして執り行われるceroとSIMI LAB、PUNPEEによる対バンライブ。ロックとヒップホップという異種格闘ながら、この3組の音楽性を隔てる溝は浅い。その構図はお互いが所属する音楽レーベル、カクバリズムとSUMMITも同様だ。今回は本公演を画策した両レーベルの長である角張渉と増田岳哉のふたりに同席してもらい、お互いの音楽観、レーベルを開始した経緯、そして今後インディペンデントな音楽業界に飛び込もうとする若者への手引きを訊く。12000字の濃密なインディ音楽レーベルCEO対談、とくとご覧あれ!

取材・構成/高橋圭太 写真/寺沢 美遊



Q. 本日はよろしくお願いします。世代は近いんですよね、おふたりとも。

増田「ぼくはいま37歳で、今年38歳になりますね」

角張「ぼくは今年36歳になりますんで、増田さんのふたつ下ですね。なので、世代的に通ってきたものもだいぶ近いと思います」

Q. ちゃんと対面でじっくり話すのは今回がはじめてですか?

角張「いや、今回の対バン企画が決まってから一度いっしょに飲んだんですよね。それが最初かな。もちろん増田さんのことは知ってたし、それこそ増田さんがFILE RECORDSにいたころ、PSGのアルバム(09年発売の『DAVID』)をリリースする前くらいにメールをもらってたんですよね」

増田「PSGを出すときにヒップホップとは違うジャンルのひとたちにも届くんじゃないかなと思ってたんですよね。カクバリズムの音源を聴いてるリスナーとかにも聴いてもらいたいなと。それで角張さんにメールしたんです」

角張「そのときに“一度会ってお話ししましょう”ってメールをもらってたんだけど、スケジュールがなかなか合わなくて不義理にしてしまったんです。だから増田さんの存在はそのころくらいから知ってたし、動向はずっとチェックしてました」

Q. SUMMITは設立してからどれくらい経ちますか?

増田「3年半です。2011年からですね」

Q. カクバリズムは?

角張「2002年からなので12年です」

増田「すごいなぁ。12年で作品数はどれくらい出したんですか?」

角張「品番をアナログとCDで別にしていたのでじつは定かではないんですけど、だいたい60~70枚くらいですかね」

Q. 増田さんから見たカクバリズムというレーベルのイメージは?

増田「“自由”って感じですかね。外側から見ていると、アーティストさんと角張さん自身の距離感が近いんじゃないかなぁと思ってて。レーベルの雰囲気としてすごく風通しがいいってイメージがあります。それはサミットも重要にしている部分だったりするので」

Q. 角張さんから見たSUMMITのイメージは?

角張「ともだちが部屋に来たときに自分の好きな音楽を聴かせて“これ、ヤバくない?”みたいな感じってあるじゃないですか。その感覚を残しながら、すごくイカしてる活動をし続けてるレーベルだと思いますね。あと、さっき増田さんが言ってた風通しのよさみたいな部分はぼくもSUMMITに感じていて。それこそひと回りくらい年齢の違うSIMI LABの面々からも“ダーマス”って呼ばれてる感じとか最高ですよね。ヤングミュージックをやってるヤングレーベルって雰囲気があってうらやましいです」

Q. おふたりの共通点として興味深いのが、どちらも過去はレコード店で勤務していたということですね。角張さんはDisk Union、増田さんはCISCOで働いていたんですよね。その経験はその後のレーベル運営にも活かされたと思いますか?

角張「ぼくはユニオンでパンクやハードコアの担当だったんですけど、ジャンル特有のDIY感があったから、なにがカッコよくて、なにがセルアウトしてるものだったかというのを肌感覚で覚えられたのがよかったと思いますね。で、働いていた00年くらいはハウスとかテクノにもたくさんおもしろい動きがあったりもして。そのあたりをレコード屋のスタッフとして見れていたのは、レーベルをやるうえで参考になってるんじゃないですかね」

Q. かつ、エンドユーザーであるお客さんの顔も見れると。

角張「そうそう。それこそYOUR SONG IS GOODの最初の7インチ(02年発売の『BIG STOMCH, BIG MOUTH / LOVE GENERATION』)を出したころはまだお店にいたので、自分でポップを書いたり、レゲエのコーナーに置いてみたりして、いろいろ実験しましたね。Disk Unionはいろんなジャンルが複合してるから、そういう売り方もできたんですよ」

増田「へぇ、そうなんですねぇ。CISCOは関東だとヒップホップやハウスとジャンルごとの専門店って形になってたんですけど、ぼくが働いていた大阪の店舗はジャンル統合型のお店で。だから角張さんの環境に近かったと思います。それって音楽リスナーとしてもすごくいい環境だったんじゃないかなと。実際、いまだにロックも好きだし、ヒップホップ以外のダンスミュージックも聴きますし」

角張「いやぁ、レコ屋は働いといて本当によかったと思いますよ。当時はずっと“イヤだなぁ”って思ってたけど。毎日“またレッド・ツェッペリンの買い取りか”とか思ってましたもん」

Q. ハハハハハ!

増田「毎日いると名物のお客さんとかも来ますよね。ぼくも店のカウンターで先輩と常連さんの似顔絵とか書いてよく笑かしあってました」

Q. ハハハハ! 小学生じゃあるまいし!

増田「店のポップ書く前に似顔絵書くのが日課でしたねぇ」




Q. ちなみにレコード店はどれくらい勤務してたんですか?

角張「ぼくは21歳で入って、23歳くらいからレーベルのほうも忙しくなってきたから日数減らしてもらって、商品入荷日だけ出勤みたいな形を取ってもらってたんですよ。その後も所属だけしていて、なんだかんだ27歳くらいまでは在籍してたんじゃないですかね」

増田「ぼくは2年ちょっとですね。00年から02年まで、って感じですね」

角張「こないだ飲んだときに話してくれたCISCO時代の話がすごくアツいなと思ったんですよね」

Q. ぜひ訊かせてください。

増田「シンプルな話なんですけどね。大阪のシスコって近くにメインストリームのヒップホップを扱うManhattan Recordsというお店があって。だからぼくらはメインの流れじゃない、そこまで売れなさそうだけどヤバいと思うヒップホップを大量に入荷して売るっていうのが楽しくって。でも、だんだんそれもおもしろくなくなってくるんですよ。単に自分がヤバいと思える作品が少なくなってる気がしたっていうか。まぁ、当時の自分も若かったし、許容できる音楽の幅も狭かったと思いますが、“こっちが100枚とか200枚をオーダーしたくなる作品リリースしろよなぁ”と、ずっと思ってたわけです。本当に素人考えですよねぇ。でも、じゃあ自分が発注を受ける側になったらレコ屋が200枚オーダーしたくなる作品を作れるのだろうかって考えて。そこから制作サイドの仕事に興味を持ったんです。それからCISCOを辞めて、兄貴が先に東京に住んでたのでそこに居候させてもらって。音楽系の求人を探して、東京で最初に就職したのが餓鬼レンジャーとかラッパ我リヤが所属してたPOSITIVE PRODUCTIONSという事務所なんです」

Q. なるほど。一方、角張さんは最初から自身でレーベルをはじめますよね。

角張「そうですね。ぼくは18歳くらいのころにパンクバンドをやっていて、メジャーというものに対してどちらかというとアンチだったんですよね。特に当時はLess Than TvやSnuffy SmileやHi-STANDARDのPIZZA OF DEATHといったインディーレーベルが大好きでしたし、自分らで作り出すことがカッコいいんだと思ってた時期。もちろん自分たちのバンドを売ってくれるとこもほかになかったし、自分でレーベルをはじめることはすごく自然な流れだったんです。憧れてもいたし。Disk Unionで働いたのも、レーベル運営の明確なビジョンはなかったものの、作品がどういった流れでお客さんに届くのかってことを知りたかったというのが理由のひとつです。かといって、じゃあ全部見越したうえでレコ屋で働いたのかって言われればそうじゃなくて、単純にレコードが好きだったからってことなんですけど」

Q. 両レーベルともアナログレコードのリリースもしてますが、レコードへの愛着はいまだに強いですか?

増田「ありますね。カクバリズムほどアナログのリリースはできてないですけど、やっぱり出したい気持ちではいて。とはいえ手間もかかるのでなかなか。やっぱりレコードは残りますよね。もちろんCDも残るし、好きなんですけど、これまでの歴史から考えていちばん後世に残るメディアじゃないですか。50年後とかに“2011年にこんなものをアナログでリリースしてたレーベルあったんだ”と思ってもらえたら本望ですね」

角張「あとはぼくらがバンドをやってたころはアナログでリリースするってこと自体がカッコよかったんですよね。その気持ちをずっと優先してここまで来ちゃったって感じですかね。採算考えたらアナログ作るメリットってあんまりないんですよ、利益率も低いし。でもやっぱりカッコいいんですよね、レコードって。単純にそれだけだったりする」

増田「あと、アナログレコードってターンテーブルをアンプにつなげなくてもかすかに音がするじゃないですか、針のとこから。あれ、けっこう感動したなぁ。原始のテクノロジーみたいな感じっていうか」

角張「フフフ。ぼくも引っ越してすぐスピーカーうまく配線できなくて、我慢できずそうやって聴きましたねぇ」

Q. それだけメディアとして強度があるってことですよね。さすがにCDだとそうはいかない。じゃあ、おふたりともレコードはだいぶ所有してるんじゃないですか?

角張「コレクターやすごいディグしてるDJにくらべたら枚数持ってるってわけではないんだけど。だいたい3000枚くらいですかね」

増田「いや、それはだいぶ持ってると思いますよ。ぼくはだいぶ売っちゃったので2000枚くらいですかね。ちなみに結婚指輪はレコード売って買いました」

Q. ええっ!

増田「そのときはまだPOSITIVE PRODUCTIONに入って1年目とかでそこまで安定はしてなかったんですよね。当時の彼女……いまの嫁さんには、東京に出て1年くらいして仕事と住むところが安定してたら結婚しようって約束していて。とはいっても、結婚指輪買うほどのお金はなかったので聴いてなかったやつをゴソッと売りましたね」

Q. いい話ですねぇ。ちなみにレーベルをはじめるにあたって影響を受けたものを挙げるとするなら?

角張「レゲエのレコードショップで0152 Recordsというところがあって、そこの雑多なセレクトには影響を受けてるかもしれない。レゲエが中心なんだけど、ファンクとかソウル、ヒップホップでレゲエの要素があるものとかも紹介していて。そのオールジャンル感はそのままカクバリズムにも反映されてると思います。あと、レーベルをはじめて数年経ったときに読んだ『自分の仕事をつくる』(西村佳哲著)という本にも影響を受けました。これはいろんな業種のひとのインタビューが載ってる本なんですけど、IDEEっていう家具屋の前社長の言葉で“ちゃんとした会社にしないほうがいい”ってことを言っていて。ようするに、これまでちゃんとした会社で働きたくないために自分で仕事をしてきたのに、それをちゃんとさせてしまったら仕事がつまらなくなるよって話なんですけど。それはもっともだと思って」

Q. おお、金言ですね。増田さんはなにかありますか?

増田「ぼくは人力舎ですかね」

Q. 人力舎って芸能事務所のですか?

増田「そうです、そうです。べつにくわしく会社を知っているというわけではないんですけど、所属してる芸人さんがみんなマイペースでいいなぁと思って。それに、仮にこれから吉本興業みたいな大帝国がつぶれて、お笑い業界の氷河期みたいなもんが訪れても、人力舎のひとたちは生き残りそうな感じがするんですよ。自分たちの価値観でちゃんとお客さんを笑わせている芸人さんが多いんじゃないかなっていう。まぁ、ぼくが勝手に思ってるイメージなんですけど。本でいうと、なかなかA&Rとかレーベル側のひとが書いたものってなかなかないんですけど、でもそういった仕事って雑誌とかマンガの編集者の感覚に近いのかなと思って『トキワ荘実録 -手塚治虫と漫画家たちの青春-』って本を読んだんです。これはだいぶおもしろかったですね」

Q. 当時のトキワ荘の個性的なメンツはヒップホップにも当てはまる気がしますねぇ。

さっきレコードへの愛着の話をしましたが、結局、レーベルをやるってことはそういった思い入れや愛着を成就させるためと言ってもいいんじゃないかなと。

増田「その側面はありますよね。自分の過去や自分が感じた経験を切り売りしながらやってる感じが自分はすごくあります」

角張「わかります。自分のなかで枯渇したなってタイミングってあって。10~20代のころに受けた影響を全部アウトプットしてしまうと、途中でどうしても“あれ、出し切っちゃったな”って時期が来るんですよ。でも、そういうときに立ち戻るのは原体験だったり自分が本当に好きなものだったりするんですよね。その意味ではまだ子供のままとも言えますね」

増田「根っこの部分ってあんまり変わらないもんだと思うんすよ、やっぱり。新しいことに触れてワクワクする気持ちって誰しもあるじゃないですか。その気持ちさえあれば全然大丈夫だと思うんですよね」

角張「そうなんですよね。たとえば客席の真ん中でバンドを見てお客さんとおなじ目線で興奮することって自分のなかで正解なんですよ。とはいえ、レーベルをやっていくうえではその目線だけでもダメかなって気もしていて。裏方なりの冷静な判断が必要な局面もあるし」

増田「角張さんに質問なんですけど、カクバリズムのアーティストがフェスとか何万人もの前でライブやってるときにうらやましいって思うことってありますか? 自分もあのステージに立ちたいって気持ちになります?」

角張「それはないですねぇ」

増田「ぼくもその気持ちはゼロなんですよ。むしろ、こっち(裏方)の仕事が楽しすぎて申し訳ないくらい。その意味ではこの仕事向いてるのかもなと思いますね」

角張「カクバリズムのアーティストってぼくができないことをちゃんとやってくれるっていうか。ぼく自身もバンドをやってたけど、彼らみたいなことは絶対できない。結局、自分がプレイヤーじゃないからできるジャッジもあると思うので。逆に言うと、そのぶんリリースに対するハードルは高くなるのかもしれないですけどね。大手のレコード会社だったら会社の予算とディレクターの出したいものさえ合致したらリリースはできちゃうんだけど、ぼくらの場合それだけじゃないっていうか」

Q. そのハードルって具体的に言語化できますか?

角張「青春のフィードバック感というか、聴いてる自分が主人公になっちゃう瞬間ってあるじゃないですか。そういう感覚って自分のなかにあるなにかを刺激するんだけど、脳内興奮があるラインを超えると、そのアーティストが自分のレーベルじゃないところでリリースするのがイヤだなって思っちゃうんですよね。これは一種の独占欲なんですけど。その衝動に駆られてやっとリリースさせてもらいたいって思うというか」

増田「もうほんと、以下同文って感じですね。加えると、本人がやっている音楽に対して本当に楽しんでやれているかというのは重要な気がします。とは言っても、自分がめっちゃ気に入ってるアーティストがSUMMITでリリースしてくれるかどうかは向こうが選択することじゃないですか。いまはまだSUMMITがチョイスしてくれるくらいのレーベルになれてるかどうかわからないので。ただ、選んでくれたらヤバいものを出せる自信はあるんです」

Q. おお、素晴らしい。では、レーベル運営でいちばん配慮することは各々どんなことだと思いますか?

増田「意思の疎通ですかね。すこしでもわだかまりがあったままで制作は続けたくないなと。全員がすこしも不満がない、っていうのは無理かもしれないけど、ひとりでも“これはイヤだなぁ”って思うレベルで反対意見のひとがいたらダメだと思うんですよ。だからなるべく自分から問題点を探していくというか。それは常にみんなに訊いてる気がします」

角張「ぼくは常々“作品を出させてもらってる”っていう感覚でやっていて、たぶんアーティストも“出してやってる”というよりは“出させてもらっている”という意識だと思うんだけど、お互いその関係性さえキープできていれば、やりたいこと、やりたくないことの線引きができてくるんじゃないかなと」

Q. それではレーベル運営の醍醐味を挙げるなら?

角張「自分がかっこいいと思うことがちゃんと共有されてるなと思える瞬間ですかね。それはCDの売れ行きだったり、ライブでのお客さんの顔だったりするんですけど。レスポンス、大事っすね。コミュニティ内でのおもしろさももちろん理解できるんだけど、やっぱり自分がどこかで飽きちゃうんですよね」

増田「そこに尽きますよね。自分自身もむかしからポップなものが好きなので、自分のポップ観が無意識でたくさんのひとと連結してるんじゃないかって勝手に思っていて。だから、自分の好きなものを上手に伝えることができればいいなと」

Q. 無粋な話かもしれませんが、自身のレーベルの作品やアーティストのライブで感涙することってありますか?

角張「ライブでは泣くこと多いです。涙もろいですよ、ぼく」

Q. ハハハ。最近ではいつでしたか?

角張「渋谷AXでやったキセルの15周年ライブですかね。あと、吉祥寺のバウスシアターでやったceroのライブでも号泣でした。勝手に気持ちが入っちゃうんですよねぇ」

増田「ぼくはわりと我慢しちゃうタイプなんでライブではそんなに。グッとくる瞬間は何度もあるんですけどね。ただ、音源では何度か泣いてしまったことがあって。朝方、仕事でクラブから帰ってきたらPUNPEEから“Renaissance”って曲のデモが届いてて、それを聴いた瞬間に部屋でひとりで泣いてましたね。歌詞が当時の自分の心境とリンクしてグッときてしまって。……うーん、恥ずかしいですね、こういう話」

角張「すごくいいですね。 正しいですよ、非常に」

Q. 今回はおふたりにどうやったらレーベルをはじめられるのかっていう話を伺いたくて。読者のなかにも自分でレーベルを興したいと思ってるひとがもしかしらいるかもしれないし、実際になにかを参考にしようと思ってもあんまりそういった経験談って載ってないんですよね。

角張「そもそも、みんなレーベルはじめたいと思ったりするのかな?」

増田「どうなんですかねぇ。音楽演奏するひとに比べたら地味な仕事なのに」

角張「現在って、たぶんインディペンデントで2000枚とか3000枚売れたら、けっこう凄いことだなと思うんですよ。しかも、全部アーティストが自主でやっても、いい音楽さえ作ることができればそれくらい売ることができる。そうなってくると、レーベルの意味合いってあんまりなくなってきちゃうんですよ。逆に言えばレーベルって形にこだわらなくても、自分たちの力だけででなんとでもなる気がするんですよね」

Q. 若いひとがレーベルをやりたいかはさておき、今後ニーズが増えていくとは思いますけどね。個人で発信できることにはある程度の限度があるし、発信するアーティストが過多になったなかで信頼に足る編集を加える第三者は必要かなと。あくまで私見なんですが。

角張「第三者が必要って意味で考えると、レーベルの良さって褒められる、オススメできるってことだと思うんです。たとえば自分がソロで作品を出すとしたら、自分の作品を自分で褒めなきゃならなくって。それって冷静に俯瞰の目線を保ち続ける才能があればいいんでしょうけど、やっぱりむずかしいし、すこし恥ずかしいですよね。あと現実的な話、アーティスト個人でギャランティーの交渉をするより、第三者が話をしたほうがスムーズにいくことも多いじゃないですか。レーベルという枠組み自体が将来どうなるかわからないけど、そう考えると存在理由はあるなぁと」

Q. なるほど。つっこんだ話になっちゃいますけど、カクバリズムはいちばん最初の資本金っていくらくらいだったんですか?

角張「ぼくの場合はラッキーだったんですけど、18歳の冬にGOING STEADYってバンドをやってた安孫子真哉といっしょに30万円ずつ出し合って、計60万円でSTIFFEEN RECORDSってレーベルをはじめたんですよ。ふたりで制作したコンピ盤がいきなり5000枚くらい売れてくれて。売り上げとしては200万円くらいがレーベルに入って、そこから待ってもらった制作費を払って、次にリリースする友人のバンドの制作費にしながら続けていったという感じですね。最初に出した30万も当時はお金がなかったから学生ローンでドキドキしながら借りたんだけど、なぜか“いけるっしょ!”という自信はあったんですよね。その流れの延長線上でカクバリズムができるんですよ」

Q. だいぶ具体的な数字が出てきましたね。最初から会社という形で設立したんでしょうか。

角張「いや、カクバリズムを会社として登記したのは2006年です。YOUR SONG IS GOODがメジャーからリリースというタイミングで会社にしました。マネージメントも我々がやるという形だったんですが、会社じゃないと契約できないって話だったのと、カクバリズム的にもいいタイミングだったので。だから、そこから司法書士や税理士を紹介してもらって、いろんな書類を作って、という感じ。会社にする前は個人っていう扱いだったからスタジオ代も前払い、ジャケットの印刷とかもその場で印刷費払わなきゃいけなかったりで大変だったっすね」

Q. 社会的な信用はちゃんとした会社にしないと得られないという。

角張「そうそう。でも会社にしたらしたで決算とかもあるから、利益を出さないといけない感覚に陥るんですよね。本当はそんなの全然気にしなくていいんですけど、日本ってそういう感覚が無意識に刷り込まれちゃってるでしょ。だから会社にしたほうがいいとか一概にすすめられないですよ。ムズいっすね」

Q. ただ、レーベルをとりあえずはじめてみて、軌道に乗ったら会社化するっていう筋道もあるってことですよね。ではSUMMITはレーベルをはじめるにあたっての準備はありましたか? 増田さんはFILE RECORDSで会社としてのレーベル運営を経験してからの独立だったわけですが。

増田「SUMMITはカクバリズムと違って会社登記してなくって、個人事業主という形で運営してますね、現段階では。そもそもレーベルを作ろうと思ったときはFILE RECORDSを辞める気もなくって。とある金曜日に、仕事しながら“これから自分はどうしていきたいんやろなぁ”って漠然とした不安を感じて、次の日にそれを嫁さんに話したんです。“もしかしたら今後、自分でレーベルやってみたいとか思うかもわからん”みたいな感じで。それで日曜ずっと考えて、翌週の月曜には社長に“退職します”と伝えてしまった、っていう」

Q. だいぶ急展開ですね!

増田「そうなんですよ。そんで、嫁さんに“いま銀行になんぼ預けてある?”って訊いて。で、それだけじゃ足りないから銀行に借りにいったんですけど、銀行ってたとえば100万円借りるとしたら口座に100万円入ってないとお金貸してくれないんですよ。だから嫁さんの預金をいったん全部自分の口座に振り込んでもらって。で、そこから200万円を銀行から借りてスタートしたんです。でも、それも最初の3ヶ月間くらいの準備でどんどんなくなっていくので、しみじみレーベルって大変だなぁと」

Q. ハハハ。資本金200万円の内訳はどのような感じですか?

増田「だいたいが最初に決めていたリリース作品数作の経費……スタジオ代、CDプレス代、印刷代などですね」

角張「そこらへんはFILE RECORDS時代の経験が大きいですよね。内情を知ってるからこそ、その金額だったっていう。カクバリズムの初期はスタジオ代をバンドが負担してて。作品が売れて、その売り上げからスタジオ代をバンドに返すってスタイルだったんですよ。だから実質必要だったのはプレス代と印刷代だけ。だから出資金が少なくてもなんとかなったんじゃないかな」




Q. カクバリズムはアーティストのマネージメントにも力を入れていると思うのですが、そういった姿勢はレーベル開始当初からあったと思いますか?

角張「ぼく、前のレーベルで失敗というか、ダメな部分があって。それっていうのは、前のレーベル時代、リリースしているバンドのツアーを組む際に、予算もそこまでなくて、ポスターやフライヤーを作り切れなかったっていうことがあって。で、案の定、ツアーにあまりお客さんが入らなかったんです。そのときに“ポスターもフライヤーも作って、しっかり宣伝をできる限りしたうえでお客さんが入らなかったらバンドの実力のせいだけど、そういった前準備ができてなかったらレーベルに不満がいくのは当然だよ”って怒られたことがあって。レーベルってリリースするだけ、レコ発ライブも企画するだけって形もあるんだけど、その経験をきっかけに、CD出すだけ、イベント企画するだけじゃダメなんだって気づいたんですよね。あたりまえですけど、とことんやらなきゃいけない。でも、予算とか流れを作れなかった。だから、アーティスト自身が自主で音源を出せる現在、レーベルだからこそできることっていうのはそっちの方向性なんじゃないかなと思っていて」

増田「たしかにそうですね。もちろん音源を出すだけのレーベルもあっていいと思うんですけど、自分自身はいい音源をいいタイミングにリリースするってだけだと、その作品に一緒に関わったって気になれないんですよ。ライブ含めて、その前後を経験しないと、レーベルの人間として作品を自信を持ってすすめられないと思ってしまうんです」

角張「そうです! そうです! 結局なにが楽しいかって、ゴールがひとつあるとして、そのゴールに向かう過程がいちばん楽しいんですよね。単純にそれをアーティストと共有したくって。ゴールに着いたら着いたで、我々の仕事はさらに別のゴールを見つけてあげることだったりもしますしね。田我流のツアーDVD(『B級ツアー -日本編-』)とか観ると、stillichimiyaの連中が移動中の車内でめっちゃ楽しそうじゃないですか。こないだ本人に会ったときにそれを伝えたら“いやぁ、ずっと高速の上でいいっすよ!”って言ってて」

Q. ハハハハ。

角張「それを聞いたときに自分もそういう時期あったなぁと思って。SAKEROCKの最初のツアーは自分たちで組んで、移動も車だったんですけど、やっぱりすごい楽しかった記憶がありますもん」

増田「わかるなぁ。SIMI LABは大所帯なんで必然的に車移動が多いんですけど、みんなこころよく了解してくれてるし、PUNPEEやTHE OTOGIBANASHI’Sもやっぱり車移動が好きみたいです。新幹線で行けるのにわざわざ車で行くこともありますからね。ぼくとしては移動で窮屈な思いさせて申し訳ないって気持ちもあるんですけど、本人たちはわりと楽しんでくれてるみたいなのでありがたいですよ」

角張「ここまで話しておいてなんだけど、レーベルやりたいって思ってるひとは本当はこの対談とか読まないほうがいいと思うんですよね」

Q. というのは?

角張「内情を知らずにやったほうがおもしろいものができると思いません? 知らないからやれることってたくさんあると思うんですよね」

増田「たしかに。ぼくもなにかを読んで参考にしたりよくするほうなんですけど、結局は参考にならないケースのほうが多いんですよね。失敗して学ぶタイプっていうか。だからルールなんて特にないと思いますねぇ」

角張「まったくその通りだと思います。とはいえ、カクバリズムはさして新しい手法は使ってないというか、CD、レコードを作って、売ってライブをするという、基本的にはすでにある仕組みのなかでやってるんです。なので10年後にどうなってるかっていうのは自分でもわかりません。ただ、それでもカッコいい音楽を作り続ければ全然余裕なんじゃないかなとも思ってて」

増田「全然余裕ですよ。その本質さえブレなければまったく怖くないと思うな。自分みたいなもんでもはじめられるんだから、だれでも大丈夫だと思います。トラブルはどんな局面でもあるだろうけど、それを回避することばかり考えると、おもしろいことができなくなってしまうと思いますから。SUMMITのアーティストにはたまに“5年後とかにはSUMMITなんてなくなってるかもしれないから後悔のない作品をリリースしていきましょう”、みたいなことを言うときがあるんですけど、これも半分は冗談、半分は本気で言ってますね。っていうのは、レーベルを存続させるために音楽作品のリリースをやってるわけじゃないからなんですよ」

Q. たしかに。運営するために作品を作ってもらうっていうのは本末転倒ですよね。

角張「その意味でもアーティストとレーベルの関係って50/50じゃないとダメなんですよね」

増田「そう。だからぼくも自分のところのアーティストに曲とかライブの良し悪しを偉そうに言うんですけど、そのぶん、アーティストにもレーベルをジャッジしてもらっています。身内から“最近サミット全然イケてないっす”とか言われても全然いいんです。それでケツ叩かれたりも実際してるし。とはいえ、みんな優しいので本当の意味ではまだまだ言いにくいことも多いと思います。今後はそのあたりもなるべく自分から気づけるようになりたいとは思ってます」

Q. なるほど。大変興味深い話でした。で、今日はceroとSIMI LAB、PUNPEEの対バン企画を踏まえての対談ということで、最後に今回の対バンに関しても伺いたいのですが。

cero / Yellow Magus

SIMI LAB /Avengers

PUNPEE / Bad habit

角張「3組とも好きなアーティストなんで単純に楽しみたいと思いますね、ぼくは。それでこの日をきっかけに今後いろいろいっしょにできるようになったらめちゃめちゃおもしろいと思いますね」

増田「それはぜひ。これからもカクバリズムといい関係が築けるようサミットもがんばります。よろしくお願いします」

角張「こちらこそよろしくお願いします。……いやぁ、けっこう話しましたね。後半はだいぶ精神論になっちゃったけど大丈夫かな?」

増田「読んでるひとに“偉そうにペラペラ語りやがって”とか思われてたりしたらイヤですねぇ」

ハハハ。いや、なかなかこういった話を伺える機会はないのでこちらも勉強になりました。ありがとうございました!




UNIT 10th Anniversary
Erection
2014.07.08(TUE) at UNIT


LIVE:
cero
SIMI LAB

DJ:
PUNPEE

THANKS SOLD OUT!
※当日券の販売はございません。

http://www.unit-tokyo.com/schedule/2014/07/08/2014_0708_erection.php