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INTERVIEW




INTERVIEW : OMSB
(TEXT : 高橋圭太)


SIMI LABの特攻隊長、近年では多くのアーティストへの客演や楽曲提供で話題を事欠かさん男、OMSB。彼の2作目となるソロアルバム『Think Good』が2015年5月2日に発売された。前作『Mr. “All Bad” Jordan』で顕著だったストラグルは、本作収録の“Think Good”や“World Tour”から聴き取れるようなポジティブなメッセージに昇華している。7月20日には本アルバムのリリースを記念したパーティーを控えたOMSBに話を聞くことができた。

地球の海が死滅したとき、ひとびとは言った。“人類の終わりのときが来た”と。頭上に広がる無限の海になぜか目をつぶって、人類の行く末をひたすら嘆いた。新しい人類の輝かしい未来を信じて、新しい無限の海、宇宙へ歯を食いしばって乗り出して行ったわずかばかりの男たちの事を、この人々は指さしあざ笑った。“はかない夢を追う無法者”と。(“宣候”イントロより抜粋)



本作『Think Good』に関してはいろいろな媒体でインタビューを受けていらっしゃるので、できるだけ重複しないような質問をしていこうと思います。まず1曲目の“宣候”では某アニメの前口上をそのまま引用されてますね。

「そうです。自分が言いたいことにすごく近いと思って。“どうせダメだよ”って言われても向かっていくっていう、“それ、だれかがやらなきゃダメでしょ”っていう自分の気持ちを代弁してくれてるなぁと」

前ソロ作『Mr. “All Bad” Jordan』のリリースは2012年です。時間が経って客観的に見れる部分もあると思いますが。

「前作はいまでも好きっすね。言ってることは間違ってないし、いまも変わらないです。ただ肩の力はもうすこし抜いてもよかったのかなぁ」

その点は『Think Good』において改善されたと思いますか?

「ですね。前作を振り返って感じた“もっと伝わるやり方があるだろう”っていうテーマを、スキルを落とさずできた。あとはビートに対するアプローチの引き出しが確実に増えてるっすね」

なるほど。さて、じつは今回のインタビューにあたって、OMSB氏の近しいひとたちに聞き込み調査を行なっておりまして。各々が感じた変化、質問などを募ったので、ここからはそれにも答えてもらおうかと。まずは所属レーベルであるSUMMITのスタッフ、平林錬氏から。彼曰く、OMSB氏のビートメイカーとしての精度とスピードに毎回驚かされるそうで。これまでの活動でスランプに陥った時期とかってあるんですか?

「いやぁ、毎日スランプっすよ。たまにいいのができるくらいなもんで。ある程度のものはできてると思うんですけど、そこの基準を上げてかなきゃいけないですからね。手癖で作ってるようなものだったり、フレッシュに感じられないものは自然と省いていっちゃう。そういう風にやってると7曲作って1曲くらい……1週間とか2週間とかに1曲って感じですね、自分でいいと思えるのは」

THE OTOGIBANASHI’Sのbim氏からも質問をもらってます。“音楽をはじめたころと現在で変わってない部分はどこですか?”という質問なんですが。

「全然変わってないんじゃないかなぁ。多少認知されてきたくらいの違いはあるっすけど、自分のなかでは変わってないと思います」

では、逆に変わった部分は?

「なんだろうなぁ……。タフになったんじゃないですかね。あんまりひとの意見は気にしなくなったっていうか。それと、すこし前までは“よかったです”って褒めてもらったりしても素直に受け止められなかったけど、最近はそんなことなくなったと思う」

ちなみに音楽で食っていく覚悟というか、腹をくくった時期って明確に覚えてますか?

「最初からそうしていきたいとは思ってたっすけど、明確にってなると、一昨年の6月くらい。当時やってた仕事を辞めた時期ですかね。でも、そこからしばらくは怠けましたね。ビートは作ってたけど、それ以外なんもやってなかった。自分のことがなにひとつできてなかったんですよ。自分のなかでは“音楽さえヤバければいいんじゃないの?”って気持ちがあったんだけど、それ以前の問題っていうか」

そういう時期から脱却できたきっかけは?

「すげえプライベートな話っすけど、いまの彼女と付き合いだしたこと、あと新しい部屋に引っ越したことですかねぇ。心機一転じゃないけど、気持ちの切り替えができた」

今回のアルバムは聴感からもポジティブなイメージが受け取られますが、その空気感も環境の変化が起因してるんですかね。

「そうかもしれないっすね。とはいえ、前のアルバムに関しても自分はネガティブだなとは思ってなくて。“こうなればいいな”っていう気持ちを攻撃的に言ってたってだけ。前作も今作も、結局言いたいのは建設的で前向きなメッセージだとは思うので」

なるほどですね。いまの話とリンクしてるかわかりませんが、レーベルメイトであるPUNPEE氏から“最近、ツイッターのツイート減ってませんか?”との質問なんですが。

「ハハハ! バレてるっすね。ぶっちゃけ飽きたっす」

ハハハハハハハ!

「ちょっと前まではめちゃくちゃやってたっすけどね。まぁ、言う必要のないことは言わなくていいかなって感じになったんですよね、最近は。実際、ツイッターでつぶやく量が減ったぶん、どんどん言葉が出てくるようになったかも。自分としてはいらない言葉を排除するくらいの気持ちで書き込んでたんですけどねぇ」

“ユメ、アキラメンナ!”と“大丈夫”を毎日定期ツイートに設定してますよね。

「あれはほんとに意味なかったんですよ。“ユメ、アキラメンナ!”はなんの意味もなく、適当に書いてて。でも“あのツイートで励まされました!”って言われたりして」

フフフ。あの定期ツイートに救われたひとがいるんですねぇ。しかも、アルバムでは“ユメ、アキラメンナ!”がB.I.G. JOE氏のリリックに登場したり。

「そうそう。だからそのまま残してますね。“大丈夫”は自分がいちばん大丈夫じゃない時間帯が深夜1時くらいなんで、その時間にツイートされるよう設定して。たぶん、ほかのひとも深夜1時とかって病みやすい時間なんじゃないかなぁと」

本作収録のスキットの話も訊かせてください。まず“Shaolin Training Day”では今回もSUMMITの増田氏が思いっきり撃たれてますね。

「まぁ、前(前ソロ作収録の“Wussup”)とおなじ感じでやってもらったっすね。電車で聞きづらいインタールードになったんじゃないかな」

そして“Words from Hi’Spec”ではHi’Spec氏の意外な一面が……。

「あれはSIMI LABのライブで沖縄行ったときに録れた音声ですね。Hi’Specは普段はピースでおとなしいんですけど、酔っ払うとあんな感じになるんですよ、オラオラな感じに」

普段とのギャップが激しすぎて耳を疑いましたけどね。

「フフフ、彼のなかに内なる人間が住んでるんですよ……。マジで狂ってる」

フェイドアウトのタイミングもバッチリでした。

「あの会話の録音自体は13分くらいあるんですよ。Hi’Specが延々おなじこと言ってるだけなんだけど。あのタイミングでフェイドアウトしたのはツボイ(illicit tsuboi)さんっすね。さすがっす」

illicit tsuboi氏はSIMI LABやソロ作など、これまでの作品にも深く関わっていますね。印象的なエピソードがあれば教えてください。

「たくさんあるっすけど、今回はJ Dillaの話ばっかしてた気がするなぁ。最初にリリースしたEPを聴かせてもらったり、去年出た編集盤『The King of Beats - Ma Dukes Collector’s Edition』を聴かせてもらったり。改めてJ Dillaのヤバさを再認識したっす」

制作中はillicit tsuboi氏のアイデアやアドバイスが活かされることも多々あるんでしょうか?

「ありまくるっすね。“Gami Holla Bullshit”は後半ビートが変わるんですけど、その後半のビートってもともと『OMBS』に入ってたもので。ツボイさんから“絶対これラップ乗せたほうがいいですよ!”って言われて、自分もそう思ったんでRedmanの“Rockafella (R.I.P.)”ってインタールード……12小節くらいでラップが入ったままフェイドアウトしてく曲なんですけど……そのイメージでラップを乗せて“Gami Holla~”のケツにくっつけてもらったんです。“Think Good”とか“World Tour”もツボイさんが手を加えてくれてヤバくなってますね。変な話、こっちがツボイさんがいじる余地を与えないくらいのヤバい曲作ろうって気持ちで送って、それをツボイさんがまたさらにヤバい形で返してきてくれるって感じ」

今回の制作で新たに導入した機材などはありましたか?

「前ソロ作ではモニタリングはヘッドフォンのみだったんだけど、最近はJBLのモニタースピーカーを導入してますね。あとは『OMBS』から引き続き、MPCとSP-606とターンテーブル、それにACCESS社のVIRUSってシンセを使ってます。最近公開された三宅唱監督のドキュメンタリー『THE COCKPIT』に映りこんでるセットですね、ほぼ」

http://cockpit-movie.com/

『THE COCKPIT』では楽曲制作過程がそのまま撮影されてますが、自身で客観的に観てみていかがですか?

「なかなか自分が制作してる風景を俯瞰で見ることもないので“こういう感じで作ってるのかぁ”って感じっすね」

MPCで延々と同じシーケンスを打ち込んでる姿が印象的でしたが、ああいった局面は日常茶飯事?

「あそこまで迷うのはなかなかないですけどね。普段はもうすこしラフかもしれない。もっと日記的というか。そういえば『THE COCKPIT』観てMPC買ったっていうひとがいるって聞いて嬉しかったですね」

おお! それは夢のある話じゃないですか。

「AKAI社からプロモーションのお金もらってもいいんじゃないかな」

ハハハハハハ!

「“すげえよかった”って言ってもらえたっすね、ありがたいことに。もちろん菊地さんのために作ってるわけじゃないけど、そう言ってくれるひとの期待を裏切らない作品を常に作っていきたいなぁって。菊地さんの話になったので言っておきたいんですけど、菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール名義のアルバム『戦前と戦後』に入ってる“大人の唄”って曲がほんとにヤバくって。それはマジで聴いてもらいたい。ヒップホップのリスナーとかで菊地さんに対して偏見を持ってるひともいるかもしれないけど、あんなにピュアなひとはいないし、あんなにシビアに音楽を分析するひとはいないっすよ。もちろんプレイヤーとしても一流だし」

その菊地氏がプロデュースした菊地凜子さんのrinbjo名義作『戒厳令』にはOMSB氏も参加されてます。そして、リリースパーティーではSIMI LABを脱退したQN(菊地一谷)氏と同じステージ上に立たれていましたね。

「あの日、向こうから話しかけてきたんで、ふたりで話しましたね。くだらないこととか音楽のこととか、いろいろ話した結果、自分の考えはなんも変わらなかったっす。べつにいまさらああだこうだ言う気もないし。和解はしてないけど、おたがい言い合うのはよそうってことになった感じですね。ただ、昔は楽しかったっすよ。昔のことまで否定する気は全然ないです」

さて、前段が長くなりましたが、ここからは目前に控えたリリースパーティーのお話を訊かせてください。アルバム参加アーティストがほぼ出演するということで、各々伺っていこうかと。まずB.I.G. JOE氏ですね。そもそもの出会いは?

「SIMI LABではじめて大阪に行ったとき、同じイベントにMIC JACK PRODUCTIONも呼ばれていて、そのタイミングではじめて挨拶させてもらいましたね。その後、自分がソロを出したタイミングくらいに“ビートを聴かせてもらいたい”って話があって。そこからJOEさんの“Lost In Meditation”につながっていったんです。で、今回はそのスキルトレードって形で自分のアルバムに参加してもらいました」

B.I.G. JOE氏の魅力はどんなところですか?

「表現の大きさっすかね。日本のラッパーって、たとえば“What’s Up”の一声でも恥ずかしがっちゃうところがあると思うんですけど、JOEさんは堂々としてて、そういう部分が一切ない。当たり前のことなんだけど、なかなかできてるひとっていないし、自分もそうなりたいって思いますね」

なるほど。“Storm”に参加したB.D.氏ですが、OMSB氏のこれまでのつながりでいうと意外な気もしましたが、どのような経緯で?

「JOEさんが去年、中目黒でライブするっていうんで遊びに行って。そのときにたまたまB.D.さんと会った感じですね。しかも、向こうから“ビート、ヤバいじゃん”って声掛けてくれて。それがきっかけで今回お願いしました。B.D.さんは言葉のチョイスも置き方もすごくて、とにかく首が振れるんですよ。めちゃめちゃかっこいい」

アルバムへの参加はないものの、ライブで出演する山仁氏も楽しみです。出会いは?

「一昨年の暮れに沖縄の残波JAMというフェスに出演したときですかね。もともと町田のFLAVAってクラブで昔ライブ観たりしてたし、挨拶もさせてもらってたんだけど、ちゃんと話したのはそのときが最初。その残波JAMでの山仁さんのライブがほんとにすごかったんですよ。そのときに物販で売ってた山仁さん関係の音源全部買うくらいやられちゃって。で、山仁さんからも“いっしょになんかやろう”って言ってもらえたんですが、まだ実現してないですね。でも、俺が沖縄で体験したヤバさをぜひお客さんにも味わってもらいたくて、今回オファーさせてもらったっす」

“Lose Myself”にギターで参加している藤井洋平氏は自身のバンドであるThe VERY Sensitive Citizens of TOKYOを率いての出演です。もともとはSUMMITの増田さんのレコメンドで知ったそうですね。

「そうです。教えてもらったアルバム『Banana Games』がかっこよくて。で、代官山UNITでやったSIMI LABのワンマンのときにはじめて会ったんだけど、藤井さんは開口一番“いっしょにやりましょう”って言ってくれて。なかなか初対面でそんなこと言えないじゃないですか。それだけでアルバムに絶対参加してもらおうと思って。最初は歌で参加してもらおうとも思ったんですけど、“Lose Myself”には泣きのギターソロが必要だと思ってお願いしました。自分もまだ今回のバンドでのセットは観たことがないので楽しみです。藤井さんの、顔でギターを弾く感じ、ほんとにかっこいいなと思ってて。ぜひライブでは藤井さんのフェイシングにも注目してもらいたいですね」

そして“Goin’ Crazy”ではOMSB氏、B.I.G. JOE氏に引けを取らないキレキレのヴァースを提供した野崎りこん氏もライブの客演に名を連ねています。

「彼はすごいヤバい。もともとはニコニコ動画をベースに活動してるラッパーなんですけど、彼がSoundcloudに上げてた“ネオサイト神樂”って曲に食らっちゃって。スキルも世界観も独特で、こっちからすぐに連絡してアルバムに参加してもらいました」

“Storm”に参加のELNANDO MOARETTA氏はライブの客演に加え、DJとしてもプレイするんですね。

「ELNANDO MOARETTA氏はSIMI LABがまだ俺とQNくらいで活動してたころからの付き合いで、めちゃくちゃイケてるMCでありビートメイカーっすね。新旧問わず、シンプルでかっこいいものをチョイスできる、職人気質って感じの先輩です」

ひと通りライブの出演者について伺いましたが、とにかく濃いメンツが集まりましたね。いま言える範囲でライブの構想を教えていただければ。

「とりあえず長尺のライブなんで、練習もけっこう大変なんですよ。100%出し切れるようにがんばりたいっすね。ほかの出演者のステージはもちろんだけど、なかでもHi’Specのビートライブもヤバいことになってるので、ぜひ観てもらいたいですね。あとはDJ陣も全員ヤバい。SARASAさんは選曲すごすぎるし、性別関係なく、バチバチ100%でやってるひとはセクシーじゃないですか。その意味でSARASAさんはめっちゃセクシーっす。ツボイさんとなかじめはじめさんのユニットのヤバさはたぶんみんな言わなくてもわかってると思います。これまで3回くらいやってるけど、その全部半端なかったんで。で、いま自分が働いてるCOCONUTS DISKの先輩でもあるSir Y.O.K.O.氏。もちろんDJとしても素晴らしいし、あの場所で働いてなかったら今回のアルバムもできてなかったと思うんで。ライブ陣、DJ陣含めて、自分にとってのオールスターなメンツなんで、楽しみにしてほしいっすね」




7/20 (祝) OMSB 2nd Album “Think Good” Release Party @ 代官山 UNIT
前売りチケット(前売り特典:OMSB NEW BEAT TAPE)



6/19発売 ¥3,000/当日券 ¥3,500
OPEN 16:30 START 17:30 CLOSE 22:30

>>公演詳細はコチラ





OMSB
Mr. "All Bad" Jordan a.k.a. OMSB

SIMI LABでMC/Producer/無職/特攻隊長(ブッコミ)として活動。 2012年10月26日、ソロアーティストとしてのファーストアルバム「Mr. "All Bad" Jordan」を発表。 2014年3月には、自身も所属するグループSIMI LABとしてのセカンドアルバム「Page 2 : Mind Over Matter」をリリース。 兼ねてからフリーダウンロード企画でBeat Tapeを多数発表し、2014年11月にはBLACKSMOKER RECORDSよりインストビート作品集「OMBS」も発表。 その他、KOHH, ZORN, Campanella, PRIMAL等、様々なアーティストへの楽曲提供・客演参加もしている。




来やがった。最初からクライマックス!!

アーティスト:OMSB
タイトル:Think Good
発売日:2015年5月2日(土)
収録曲数:全17曲
レーベル:SUMMIT
品番:SMMT-55
価格:¥2,500 + Tax

●アルバム参加アーティスト (A to Z):
AB$ Da Butcha
B.D.
B.I.G. JOE
DJ YAZI
ELNAND MORELETTA
FUMI
G.RINA
Hi’Spec
jjj
Kurt Vandan
MUJO情
The Anticipation Illicit Tsuboi
野崎りこん
藤井洋平

●トラックリスト
1. 宜候
2. ActNBaby
3. Storm
4. Gami Holla Bullshit
5. Shaolin Training Day (Interlude)
6. 黒帯 (Black Belt Remix)
7. Goin' Crazy
8. Touch The Sky
9. Ride Or Die
10. Scream
11. Words from Hi'Spec
12. Memento Mori
13. Think Good
14. Zone 8
15. Orange Way
16. Lose Myself
17. World Tour