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鴨田潤 / (((さらうんど))) インタビュー

鴨田潤、Crystal、K404からなるユニット(((さらうんど)))による2作目となる新アルバム『New Age』。発表からまもなく好事家からライト・リスナーまで幅広く注目を浴びた本作は、2枚目のジンクスなんてものを軽く吹き飛ばし、音楽的なクリエイティビティーを維持したままポップスとしての強度を高めた傑作となっている。本作のリリース・パーティー<(((ぱれいど)))>の開催を記念して、鴨田潤の“作詞家”としての側面をフィーチャーしたインタビューを敢行。このテーマを設定した理由はウェブ・マガジン<Qetic>での(((さらうんど)))インタビュー の鴨田氏の以下の発言をもっと詳しく掘り下げたかったためだ。
「いままでは、歌を言葉のイントネーションで歌っているような節が自分にはあったんですけど、やっぱりメロディーを改めて意識するようになりました。あとはその使い分けですね。イントネーションが自分の中で合った歌い方をしているほうが、ポップスとして言葉が伝わりやすいんですよね。でも、それを使いすぎるんじゃなくて、いちばん伝えたい部分でイントネーションを活かすとより曲がよくなるっていうことに気づいたんです」
 (((さらうんど)))の歌詞制作、ひいてはポップスとしてより公共性の強い言葉を生み出すメソッド、そしてだれでも短時間で作詞家になれる方法まで、鴨田潤のロジカルな思考に迫った。
(取材・文/高橋圭太)



Q. まず本題に移る前に今回のアルバムの話から伺っていきたいんですけど。前作『(((さらうんど)))』から本作までのあいだに歌詞制作の面で大きな違いはありますか?

「今回は全曲ラブソングにしようっていうのが最初からあって。1枚目を作ってラブソングが作りやすかったから今回は全編それでいこうって感じでしたね」

Q. ラブソングが作りやすかった理由はどういうところだったんでしょうね。

「ラブソングじゃないものってイルリメとか鴨田潤とか、 (((さらうんど)))以外でできるので。なので(((さらうんど)))らしさみたいなことを考えたら今回はラブソングに専念した方が書きやすかったんですよね」

Q. 今回のインタビューでは(((さらうんど)))の歌詞の側面からアルバムを紐解いていければと思います。振り返ってみて、鴨田さんのなかで作詞において大きくモードが変わった時期をいくつか挙げるとすると?

「うーんとですね、最初にイルリメはじめた時期からソロの4枚目(『www.illreme.com』)でひと区切りして、そこから変わってきましたね。普通の曲が書けるってことに気づいたっていうか。それまではラップのおもしろさ……パンチライン的なおもしろみを追求してたけど、“トリミング”を作ったあたりで普通のひとが聴いて理解できる歌詞が書けるってことに気づいた、それが2004年くらい。そこから2006年に二階堂和美のアルバムの作詞をやって、それも自分としては大きかったですね。あとは『イルリメ・ア・ゴーゴー』でダンス・ミュージックのための歌詞が書けるって気づいたとき。そこから弾き語りのアルバム(『一』)を出したんだけど、そこで歌用の詞を自分の口から歌えることに気づいた。で(((さらうんど)))に至ると。それが大まかな変化ですね」

Q. 音楽スタイルの変化がそのまま歌詞制作の変化につながる、ということですかね。

「そうです。それと年齢と気力の変化。年齢を重ねるとそういのは変わってくるので。考え方が変わるとやっぱり書きたいことも変わりますよね。最近“流星より愛をこめて”をひさびさにライブでやる機会があったんですけど、あの歌詞はいまの自分のライブではたぶん言わないことだなって思いました。昔の自分じゃないと言えない」

Q. その年齢に応じた歌詞があるという。

「結構それが出ますね。自分のそれまでの活動はバンドじゃなかったから。バンドとかだったらある程度、役回りみたいなものがあるからそのバンドに見合った歌詞の内容で、できるんだろうけど。自分はひとりでやってたし、クルーにも属してなかったから、なにやってもいいっていうか。ひとの目の調和を気にしなくていいっていう自由さがありましたね」

Q. イルリメ時代にやってきたラップ表現と(((さらうんど)))で実践してるポップスの歌詞表現には距離があると思うんですが、そういう面で難しくはなかったですか?

「でも、もうラップの譜割りに対して疲れとか飽きてきたっていうのもあるから、そうなると少し距離をおいて違う方向で新鮮さをみつけてリフレッシュするという感じで」

Q. 加齢に応じてフィットしてきたというか。

「そうですね。ラップする前の中高生のころ、ギターに手を出してたので自分はラップより歌が先だったので、歌への要素は持ってるっていう。持ってるものを最近出してなかったから、引っ張り出してみようかなって感覚ですかね」

Q. ポップスの歌詞を書くうえでルールってありますか?

「歌になると、文章じゃないから、口語だけでわかるような言葉選びをしたほうがいいっていうのは思ってますね。できるだけむずかしい言葉は使わないっていう。あと、言葉をメロディーに乗せるときに空耳されないようにしなきゃいけない。たとえば、“語感”って言葉を歌ったときに“股間”って聞き間違いされないように、とかですね」

Q. ハハハ。歌詞のイメージが台無しですからね。たとえば、今回のアルバムで作詞の技法として新しく取り入れたものはありますか?

「“空中分解するアイラビュー”みたいなんは今回からですね。タイトルからして……」


(((さらうんど))) – 空中分解するアイラビュー

Q. ハッキリ言っちゃってるってことですか?

「ハッキリ、わりと今までと比べてまっすぐに言ってますね(笑)。年齢ですね。どんどんやってくうちに照れってなくなっていくんですよね。自分が恥ずかしいか恥ずかしくないかギリギリのラインを攻めていってできたのが“空中分解する~”で」

Q. あとは日常の口語で使わない単語っていうのも歌詞に出てきますよね。

「例えばですけど、“きみは New Age”で言うと“騒然と”って言葉になるんだけど、これはワイワイガヤガヤしてる感じを表してるんだけど、これを小節のなかに収めようとしたときに“ワイワイガヤガヤと”ってなると当然ハミ出ちゃうわけですよ。それをうまく小節内に収まる言葉を当てはめるっていう。口語じゃない言葉を使うのはそういうとき」

Q. ただ、ラップの歌詞においては、わざわざ省略せずにそのまま“ワイワイガヤガヤと”って使えるわけですよね、情報量的に。

「うん。歌ってやっぱり言葉を絞っていかなきゃいけないんですよね。だから語彙も増やさなきゃいけないし、大変」

Q. 以前アップされてた 砂原良徳さんと(((さらうんど)))の対談 のなかで、“きみは New Age”について、砂原さんから入ったディレクションについて話していますよね。“サビと平歌の言葉の数にもっとメリハリを”とのアドバイスだったそうですが。


(((さらうんど))) – きみは New Age

「はじめの“きみのNew Ageな魅力がぼくの心ぬりかえた”って部分は半分の小節に詰め込んでたんですよね。もっと早口で。砂原さんからアドバイスをもらって、現在の形になったんですけど」

Q. “Soul Music”は本作のなかでも言葉の響きがおもしろい楽曲になっていますが、どのように作っていったんでしょう。

「基本的に全部の曲に言えるんですけど、書き方としては、トラックを聴いて、その音から連想する景色を言葉におきかえていくっていう方法で。この曲だと歌い出しの“てか、ボクらは”って歌詞が最初に思い浮かんだんだけど、そこの部分でまずキャラクターが決まるんですよね。“というか”じゃなくて“てか”とすることで軽い感じの人間像ができあがる。そこから、そのキャラクターと言葉使いの相談をしていく。また“きみは New Age”を例に出すけど、歌詞の“あぶないほどに”の“あぶない”が最初に声を出して歌ったときに、すこしカッコつけた感じの響きで。ちょっと余裕のある感じの。そこで生まれたキャラクターに基づいて歌詞を作っていくっていう。もっと言えば“あぶない”の“あ”からはじまった時点で、曲に対してどういう表現をしていくかが決まる。これが“抱きしめたい”の“だ”みたいな濁音ではじまると印象として強くなっちゃうし、キャラクターも変わっていきます」

Q. たしかに濁音は聞いた印象としてフラットではないですよね。

「強いですね。“Swan Song’s Story”は“いま、唇からもれた”って歌詞からはじまるんだけど、“い”のもともとの語感だとちょっと弱いかなと思って、“い”にイントネーションを置いて、強く発音したりしてますね。“Neon Tetra”の“放課後のような街角を泳ぐ”は“ほ”ではじまるにはすこし間抜けな感じがしちゃう……まぁ、は行はだいたい間抜けな印象になるんだけど。で、そこで抜けた印象をどうするかっていうと、“ほ”の歌い出しを小節の前に持ってきて、“う”から小節がはじまるようにする。母音はそれぞれキャラクターを持ってるんですよね。声に出すと色が見えてくるという。あ行だったら“い”は黄色、“う”はグレーとか水色、パステル、“え”はオレンジ……でも、反対色の緑の印象も持ってるんですよね。それで“お”は青とか紫の暗めの色、とかそれぞれ与える印象が違っていて。前作に入ってる“夜のライン”は暗いなかにライトが当たってるイメージがあったから黄色のイメージの言葉からはじめたかったんですよ。しかも強めに当たっているから、か行をくっつけて“きみが”という歌詞からはじまってます」


(((さらうんど))) – 夜のライン

Q. だいぶロジカルですね。

「一般的な作り方かどうかはわからないですけど。自分は絵も描くし、どっちかというと映像を言葉に変換するタイプ。感覚的な人間なので、頭のなかに浮かぶのは絵とか映像だから、それを歌詞にしていくタイプというか」

Q. 現在の歌詞の作り方にラップ的技巧だったりが反映してたりはします?

「直接的ではないけどあります。特に口の動かし方は重要視してます。“きみはNew Age”のサビ前にある“どきどきさせる天才さ”なんかは、すごく小粋なリズム感のあるフレーズで。自分でもよく出てきたと思ってます。これも最初は“どきどき飛ばす弾丸だ”って歌詞だったんですけど、これだと濁音が多すぎて次に来るサビが活きない。だから“さ”でリズムを作って“る”とか“ん”でそのリズムを小さく絞るように持っていってます。この手法を使ってる別の曲でパッと思い浮かぶのは79の“Summer Lemon Cream”って曲で」


79 – Summer Lemon Cream(02:21~)

「フックで“めまいするような暑さの夏だった”って部分があるんだけど“あつさのなつだった”みたいに“つ”でリズムを取って“だ”と“た”でダイナミックに止めにいってる。作詞のときもラップするときも自分は“どう韻を踏むか”ってことはそこまで考えてなくて、こういう風な言葉のスムーズな流れを考えて作ってます。ちなみに79のこの曲はジャネット・ジャクソンとQティップの“Got Till It’s Gone”のフロウに似せてるんですよね」

Q. ああ、これは洒落た使い方ですねぇ。

「こういうのって確信犯でやるのと無意識で使ってしまう場合があって。もちろん79のこれは前者かなと思いますけど、記憶に残ってるものが思わず出てしまうことってありますよね。それは歌詞もそうだし、メロディーもそうで」


Janet Jackson feat. Q-Tip – Got Till It’s Gone(02:47~)

「言葉のイントネーションとメロディーがぶつかってしまうこともありますね。たとえば“きみは New Age”の“ぼくの心ぬりかえた”って部分ははじめ、普段口に出す“こころ”のイントネーションで歌ってたんですけど、それだとコード進行とぶつかるので、うまくはまるメロディーの方に寄せました。このメロディーからだと言葉のイントネーションとしては“四国”だったり“照らす”の音程がうまくはまるんですけど。かといって“ぼくを照らしぬりかえた”だと綺麗だけど意味が薄くなってしまうので。だから“心”って言葉はそのままにして、イントネーションから歌メロのほうに変えたっていう。そういう細かい試行錯誤はけっこうしてました」

Q. イントネーションの問題はポップスを作るうえで重要な気がしますね。

「自分はイントネーションを重視するタイプですね。でも、そこに重きを置くと歌が下手に聞こえるって問題はあります。歌がすごく上手いひとでも歌詞が頭に入ってこないってことはよくありますけど、それはイントネーションを崩しているからだと思います。あとは譜割りの問題。譜割りで意味が変わったりもする。“きみは New Age”の“プラスティックな戦略も”って部分は、聞こえ方としては“プラスティクな”って感じになっていて、これは“ッ”を抜くことでアクセントをつけて耳に引っ掛かるような結果になってます。これはこれでアリ。これもおなじような手法を使ってる曲を持ってきたんですけど。ザ・なつやすみバンドの“サマーゾンビー”って曲」


ザ・なつやすみバンド – サマーゾンビー

「これ、映像も込みでおもしろい話がありまして。あたまの歌詞が“ハトの合図で”と歌っていて、それでこのMVを作られたのはタッカーさんなんですけど、曲タイトルに「ゾンビ」って言葉があるので、ハトじゃなくてコウモリを飛ばしているんですよね。で、時間かけてMV作ってから、タッカーさんがそのハトをコウモリに変えて飛ばしている意図を、作詞をしたシラフさんに伝えたら、「あ、あれハトじゃなくてハートなんですよ」って。“ハートの合図で”だったっていう(笑)。でもシラフさんはわざとそういう誤解もトリックのひとつとして書いたらしくて。“ハト”に聞こえるけど、歌詞を確認したら“ハート”になってるっていうおもしろい仕掛けを作っていて、2度楽しめる、という。そういうのは子供のころ大人の言葉使いがわからず聴いていたとき、よくあったポップスの醍醐味ですよね」

Q. おもしろいですねぇ。そういった表記のマジックって自身の作品にもありますか? そういえば“空中分解するアイラビュー”は“アイラブユー”ではなくて“アイラビュー”と表記していますが、この理由は。

「あ、そうそう、そうなんです。これは“アイラブユー”と“景色”の“view”をあわせてます。“空中分解して風に溶けていく”ってことは、大気のなかで相手に届かず彷徨っている感情が“詠み人知らずの詩”になった景色となっている。それらを眺めながら、自分の感情もここに溶けて同じように彷徨うんだろう、って曲なんですよね。あとはダブルミーニングでその意味を聞き手に選んでもらうっていう手法もあります。自分がよく使うのは“うつる”って言葉を歌詞に書くときはひらがなで表記するっていうので。二階堂和美の“なみだの色”という曲は自分が詞を書いたんですけど」

お店の前で母親に/ぐずり濡らす
あの子の赤い頬/夕焼けも赤く
涙染めて足を止めた/うつる空が心つれていく


「この歌詞の“うつる空”は、昼から夕方に向けて“移った”空と、こどもの涙に“映った”空っていうふたつの意味があって。そこは両方の大きいものと小さいものを書きたかったんです。前作1stに収録している“陽炎リディム”も同じ感じです。“君の目にうつる夏は何時も広く晴れわたり”って表記していて」

Q. ダブルミーニングの歌詞でおもしろいと思う作品例は挙がりますか?

「キエるマキュウの“Chiisana Taiken”って曲があって、そのなかで “うんこ前輪で踏んだら後輪でも踏む/つまりまっすぐ突き進む”って歌詞があるんですけど、ここで“つまり”って選んだ理由は、潜在的に“糞詰まり”を想起させるからだと思うんですよね。そこから糞自体の大きさであったり、固さみたいなものまで連想できますよね。それを踏まえて突き進むってことの強さも想像しやすい。さっきの母音と子音の話におきかえると“つまりまっすぐ突き進む”って“つ”が3回出てきてリズムを作ってくれるし、リズムを特徴づける“ま”の配置も効いてる」

Q. ご本人たちが意識的か無意識的かは置いておいて、論考として興味深いです。

「そうですね、これは俺のただの考えすぎなのかもしれないですけど(笑)。あとマキュウについては思うことがあって、マキ(ザ・マジック)さんのラップって荒々しいよな、てずっと思ってたんですけど、BREAKfASTのライブを観ていたときに、マキさんはハードコア・パンクの唱法でラップをしてるんじゃないかってハッと気づいて。そう思うとマキュウってすごく稀有なコンビに思えたんですよね。CQさんのような生粋の巧みなラップとマキさんのハードコア・パンクの魂をもったラップを、ヒップホップのトラックに落とし込むっていう。その魅力に気づいた瞬間、マキュウにどんどんハマっていきましたね」

Q. そのほかに作詞において重要なポイントはありますか?

「言葉を追い込むというか、自分の頭のなかにある景色をどういう風に言葉にしていくか。それは重要だと思っていまして。たとえば自分の“さよならに飛び乗れ”の歌詞に“夜空に輝くつぶらな飛行機がいま”ってあるんですけど、ここでの“つぶらな”っていうのは、ベタに言ったら“ちいさな”ってことなんですが、それだと、大きさからくる感情が追い込めてないっていうか。それで最近でいうと、言葉ですごいなと思ったのは(((さらうんど)))のウェブでやってる『31のリマインド』のなかでも挙げている、『ガメ・オベールの日本語練習帳v_大庭亀夫の休日』というブログ記事のなかで“ひとつでも多くのドアをあける”って文章があるんですけど」

あるいは夕暮れに船を出して、ハウラガキウルフを出る頃に漆黒に変わる海を眺めていると、自分の頭のなかの言語そのものが静まってゆくのがわかる。からだのなかに熾火のように残っている音楽も消えて、完全な沈黙がやってくる。

「海でぼんやりしてだんだん考えごとがなくなってくる状況を前半部で書いていて。そのあとに静寂から、からだの躍動もなくなっていく、それを音楽という言葉に変えているのもすごく巧いと思うんですけど、さらに、熾火っていうのは、炎はないけど薪が赤くなってる状態なんですけど、この熾火って言葉を使った表現はほんとすごいなと思ったんですよね」

Q. 心象風景なんだけど、しっかりビジュアライズされているっていう。

「そうなんですよね、“例え方”がからだに記憶している映像にしっかり届いて驚いてしまうという。メッセージをストレートに伝えるっていうのも手段のひとつなんですが、自分はメッセージを景色のなかに収めて伝えたいというか。その景色が共有できればポップスとしてしっかり成立するんですよね。そういう意味でほかに好きなのはうつくしきひかりの“針を落とす”って曲です。この曲は“思い出す”って事象を“針を落とす”って言葉に変換させてるんですけど。この曲に影響を受けて、このやり方って、自分のなかでスクラッチを生み出したとかと同じくらいの発明だと思って、これが1曲で終わるのは勿体ないなと感じて、おなじ手法で歌詞を書いたのが前作の“R.E.C.O.R.D.”なんですけど。それくらい好きな歌詞ですね」

理想的な音楽や/陽あたりのいい晴れた家
未来を語る夢や希望/すわりこんだ僕の庭に
針を落とす

適当にうつ相づちや/影響をうけた人のことば
忘れてしまった曲の歌詞/ことばにできない苛立ちに
針を落とす

つかまりやすい手の置き場/疲れたときに休むところ
寂しいときに寄り添う肩/居心地のいい馴れた胸に
針を落とす


「すごく映像的ですよね。レコードの針を落として音楽が鳴りだすように、想い出がよみがえってくるという思考が。おなじようにレコードになぞらえた曲でリブロの“三昧”って曲もすごく好きで。これは“レコードの溝”を“旅”に変換してる。なかでも“音楽がコンパスとなって連れまわす/内なる光源に向かって船出す”ってラインが好きです」


LIBRO - 三昧(01:37~)

「それで、ここまで歌詞についての話をしてきたんですが、実際に書くのはやっぱりむずかしいって話、よく聞きますよね。シンガーソングライターのひととか歌詞かけないっていうの、よく耳にします。それで去年コラムで一度披露したんですけど、だれでも簡単に歌詞が書けるやり方を遊びで考えたので、この場を借りてもう一回披露しようかなと思って。『変換作詞法』って名前つけてコラムを書いたんですけど、このやり方なら1時間でミニ・アルバムくらいの曲数書けるんじゃないかっていう。それはまず、書きたい歌詞の内容や方向性とは正反対のミュージシャンを思い浮かべます。で、次に思い浮かべたミュージシャンの歌詞を探す。そしたら、その歌詞に出てくる単語をひとつずつ正反対の言葉に変換して、全体のつじつまが合うようにブラッシュアップしていくっていうやり方です。(((さらうんど)))の“夜のライン”の歌詞を使って書いてみたので読んでみてもらっていいですか。まずは変換する前の歌詞」

君が夜を呼べば/空に月が灯り
暗い夜の街で/耳を研ぎ澄ました
人をかき分けて/網をくぐり抜け
見果てぬその夢に/君の手を引いてく
そうまさに
読みかけの小説を/目の前に広げた様
飛び出しそうな心/目と目を合わせながら
じれったいみえっぱり捨てたいと頷き
越えたい夜のライン/二人の足が
飛び越えてぬりかえた/足音を響かせて


「この歌詞をひとつずつ正反対に変換するんですが、つじつま合わせにすこし時間がかかります。例えば“呼ぶ”の反対語を“呼ばない”とするのではなくて、“呼ばれる”と変換するっていう。で、前後の言葉となじむように調整していくと。そうすると、こういう歌詞ができあがります」

ぼくは朝に起こされた/大地に太陽がかげをつくる
あかるい朝の田舎では/口がのんびりするね
空気をあつめたよ/両手につかまえて
見飽きた現実に/ぼくの足は立ち去った
なんとなく
読む前のマンガを隠して捨てたような
引っ込み思案なからだ/おたがい別々のほうを向き、行った
即座に謙虚さが「拾うんだよ」と首を振ったので
とどめていたい朝の混沌を/ひとりの手で
なにもせずそのままに/静けさのなかのままに


「こうなると原曲のシティ・ポップ感は一切なくなって、アコギとかが映えそうな雰囲気になるっていうね。サイケなフォークみたいにも聞こえる歌詞に変わるという」

Q. しっかり成立するもんですねぇ。

「しかも引用自体はしてないから歌詞の盗用にもならない!」

Q. ハハハ!

「まぁ、辻褄あわせのコツはいると思いますけど。ちなみに自分はこの方法で歌詞を書いたことはないです、もちろん。あともうひとつ、おなじやり方で書いた歌詞があるので見てみてください。すごく有名な曲を反対語に変換したものなんですが」

ハイウェイのライオンは吼えながら幻想で死んでいた
すべてが変わる革命の荒野
おまえは冬が訪れないと肩を落としているが
おれは仲間と浮かれている
前にも言ったがおれに隠しごとなどない
つぶらなAM5:00の朝焼け
大人とは違う手口で
山も地も雨もおまえも消し去ってやるぜ
あの短い、そう、短い発射台、おれは戦闘機の先頭で
エンジン全開で高速で、そうだ、高速で駆け上がる

Q. だいぶすごい歌詞になってますね……。これの原曲はだれですか?

「ヴィジュアル系バンドの歌詞みたいなね。これ、ゆずの“夏色”です。だいぶ退廃的な歌詞になりましたよね。まぁ、こういう風にだったら作詞が苦手なひとも簡単に書けるっていう遊びです」

Q. 作詞法まで含め、ここまで鴨田さんの作詞技術について伺ってきましたけど、これだけメソッドやロジックがあってもやはり歌詞を書くっていうのは大変な作業ですか?

「そうですね。でも、時代とともに、あたらしくやりたい表現方法がどんどん出てきて更新されるから、いちばん夢中になれる楽しい作業ですね。作詞では誰にも負けたくないと思ってるので、すごく神経質にもなります。でも神経質なわりに飽き性だから、そのおかげで作品出せてるんですけど。これで飽き性じゃなかったら、デビュー・アルバムずっと作ってるうちに一生終えてるかもしれない」




2013.09.15(SUN) at UNIT

(((さらうんど))) 「New Age」 Release Party “(((ぱれいど)))”

LINE UP:
(((さらうんど)))
GUEST :砂原良徳
荒内佑(cero)
澤部渡(スカート)
アチコ(Ropes, on button down)
Kashif(PanPacificPlaya)
後関好宏(在日ファンク, stim)
高城晶平(cero)

SPACE DESIGN & VISUAL LIGHTING : Mixer (Life Force)

OPEN:18:00
START:19:00
ADV 3,000円 / DOOR 3,500円 (別途1D)

※前売購入特典有り!

前売りチケット購入者特典:
アルバム『New Age』のジャケットをモチーフにした「大きめ缶バッジ」

CD購入者特典:
(((さらうんど)))の新曲「Memory Glass」と、 曽我部恵一さんによる「きみは New Age」のカバーを収録したシングルCD (※当日は『New Age』に封入されている(((ぱれいど)))の情報が記載されている用紙をお持ちください。)


イベント詳細はコチラ>>